コロナとオリンピック 2021/09/05

「仕事から帰宅・・息子だけ夕飯・・週の半分以上は自分の夕飯を抜く生活・・1年以上・・・」という記事が、いつまでも頭に残る。コロナで仕事を失う母子家庭の話は、自分の子供のころを思い出しながら、日本だけでなく、オリンピックの役員の問題に限らない。歴史的にも、現在も残り続ける・・人類の課題なのか。そして、日本は世界的にも、女性の地位が最低レベルを保っている。

オリパラは、さまざまな形で、社会・世界の課題を浮き彫りにしたが、その背景をどこまで見るか・・それがひとりひとりの目に見えるかどうかの課題でもある。


〔・コロナ危機と経済:痛み集中、追い込まれる女性 非正規職員、夕食は息子だけ 朝日 2021年7月14日 

 関西の市役所で非正規職員として働く40代の女性は、中学生の息子と2人で暮らす。仕事から帰宅すると息子の分だけ夕飯を用意する。食費節約のために、週の半分以上で自分の夕飯を抜く生活は、もう1年以上になる。

 最初の緊急事態宣言が出た昨年4月、パート先から解雇を告げられた。会社の業績が傾き始めていたからだ。2週間後に失業したが、会社が支払うべき「解雇予告手当」はもらえず、頼りにしていた失業給付も受け取れなかった。収入を増やそうと、一時期、派遣の仕事を掛け持ちしていたことが裏目に出て、受給に必要な要件を満たせていなかった。

 「家賃が払えなくなったら」と恐怖を感じていた。ようやく見つけたのが、いまの市役所の仕事だ。時給1千円で、前の会社より200円低い。朝9時から夕方5時過ぎまで働いても手取りは月10万円台前半。月1万円の児童手当と、4万3160円の児童扶養手当を足しても赤字で、わずかな貯金を切り崩して暮らす。息子には塾をやめてもらった。市役所とは今年度末までの契約で、その先は見えない。

 市役所の窓口に立ち、失業した障害者や住まいを失った人、家庭内暴力(DV)に苦しむ人らに出会う。「より貧しい人、より弱い立場の人に、『痛み』が集中している。コロナは不平等です」

 「シー・セッション(She―cession=女性不況)」。コロナによる現在の経済状況は国内外でそう呼ばれる。女性が男性以上に大きなダメージを受けているとして、できた造語だ。男性労働者が多い製造業を中心に大きな影響が出た2008年のリーマン・ショックとは異なる。

 働き手への影響は、国内でも女性に顕著だ。感染拡大が本格化した昨年4月の女性の就業者数は前年同月より53万人減り、27万人減だった男性の2倍の落ち込みに。同じ4月に跳ね上がった休業者数も、女性は前年同月比249万人増で、増加幅は男性の1・5倍となった。

 シングルマザーへの影響も深刻だった。内閣府によると昨年7~9月期は、女性全体では仕事から離れた人の多くが職探しをせずに「非労働力化」する傾向に。一方でシングルマザーの完全失業率は予測値より3%分悪化。子どもを養うために仕事を探し続け、それでもなかなか見つからない状況があったという。

 経済への制約が長引けば、脆弱(ぜいじゃく)な生活基盤しか持たない人々を更に追い詰めてしまいかねない。

 ■切り捨て、社会に損失

 なぜコロナの影響は男女で異なるのか。

 主に三つの要因がある。打撃が大きかった飲食や宿泊業界は、働き手の6割が女性だ。そもそも働く女性全体の半分が非正規労働者で、雇用調整の対象にされやすい。さらに家事・育児の分担が女性に偏る構造のなかで一斉休校や外出自粛で増えた負担が上乗せされ、離職を選ばざるを得なかった女性も多い。

 こうした傾向は、世界の多くの国で共通する。男性より賃金が少なく貧困に陥りやすい状況も似ている。在宅時間が増えたことでDVや性暴力も増加した。

 「もろさ」を克服するのに何が必要か。女性の労働問題に詳しい日本女子大の周燕飛(しゅうえんび)教授は「コロナ支援政策にもジェンダー視点を取り入れることが重要」と話す。政策の効果は、ジェンダー格差が大きい社会ほど男女間で差が出やすい。それを意識した上で、女性たちのニーズなどに即した対応が求められるという。

 たとえば、休業手当を払った企業に国が支給する雇用調整助成金。コロナ下の特例が多くの人の雇用維持に役立ち、12日には特例の延長を自民党が政府に要望した。だが、女性に多いシフト制などの働き手には休業手当を払わない企業が多く、そうした人たちへの政策効果が十分ではない実態がある。

 昨年、世帯主へ一括支給された1人10万円の特別定額給付金。世帯主の大半は男性という現状のなか、支援が必要な女性たちに十分に届かない恐れがあるとの批判も起きた。

 雇用の面では、ITなど需要がある産業への労働移動が今後求められる。新しい技術を習得するための職業訓練が重要で「週末に受講できたり、託児サービスをつけたりと、女性たちも利用しやすい仕組みにするべきだ」と周さんは語る。

 貧困家庭の子どもの学習支援をするNPO法人「キッズドア」は母親向けにウェブデザインやプログラミングのオンライン講座の無料提供を始めた。週末に自宅で受けられると人気で、10人の定員に100人超の応募があった。

 渡辺由美子理事長は言う。「稼げるように支えれば家計の安定につながる。個人消費にも貢献し、社会保障の担い手にもなり、経済全体にとってプラス。女性の貧困を『自己責任』で切り捨てれば、社会にとって大きな損失です」

 ■<視点>施策、ジェンダー視点を

 「女性は家計の補助。賃金は安くてもいいし、雇い止めしてもいい」。取材を通じ、社会にはいまもそんな認識が根強いと感じる。

 仕事を失うことは、収入が断たれるだけにとどまらない。孤立し、経済的な先行きへの不安から心身の健康を損ねやすくなる。DVへの抵抗力も下がり、子どもの成長や教育水準など影響は次世代にも及ぶ。

 今月、東京都内のカフェで女性向け相談会が開かれた。弁護士ら支援者側も全員が女性。花を飾り、託児スペースも設置、野菜や生理用品なども持ち帰れるようにした。相談者を否定する言葉は使わないルールも徹底。女性たちが来やすいよう工夫をちりばめた。

 政府の支援策はどうだろう。女性にとっての利用のしやすさや実施した場合の効果など、十分に考慮されているとは言いがたい。そうしたジェンダー視点がいまこそ必要だ。

 コロナで露呈した私たち社会の「弱点」。見て見ぬふりは許されない。(高橋末菜)

 

池澤夏樹さん「ウソにまみれた五輪」 感動の消費で終わらないために  聞き手・斎藤徹     2021年8月9日 
 コロナ禍のなか強行された今回の東京五輪。招致活動から開催まで底流にあるのは何か。作家・池澤夏樹さん(76)に聞いた。

 今回の東京五輪全体を総括すれば、あまりにもウソが多かった五輪ということになるかと思います。

池澤夏樹(いけざわ・なつき)
1945年、北海道帯広市生まれ。作家、詩人。ギリシャや沖縄、フランスに住み、2009年から札幌市在住。芥川賞を受賞した「スティル・ライフ」のほか、「静かな大地」や「カデナ」など作品多数。朝日新聞朝刊で小説「また会う日まで」を連載中。

 招致段階で、当時の安倍晋三首相は、東京電力福島第一原発事故について「状況はコントロールされている」と発言しました。原子炉建屋内にはメルトダウンした核燃料が取り出せないままで汚染水も日々たまっているなど、事故が今も収束していないのは周知の事実です。

 当初盛んに言われていた「復興五輪」もウソ。結果として、東北復興とは何の関係もない五輪でした。

 招致委員会が提出した立候補ファイルでは、開催時期の東京の気候が「温暖でアスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候」とうたっていました。

 池澤さんはインタビューの後半で、1964年の東京大会と今回の大会との違いを語ります。そして、自らが住む札幌市が2030年冬季五輪の招致を目指していることにも異議をとなえます。

 8月の日本は、北海道も含め、どこも暑いことを、僕たちは知っています。大会開催中、テニスのジョコビッチら、選手からは異常な暑さに怒りの声が上がりました。

 最大のウソは、日本政府が、「国民の命と安全を最優先する」と言い張り、五輪開催に伴う新型コロナ感染拡大のリスクを無視し、開催を強行したことです。 〕