政治と国民の意識  2022/10/24

私は、この十数年の政治・社会の中で、 森友・加計問題から桜に至るウソを見てきて、政治家はもちろんのこと・・そんな政治を支える国民こそが、発言や行動が腐ってきているのではないかと思える。それは、自民党も、トランプも、プーチンに至る・・こ社会と世界の背景が見えてきて、人間とはどういう生き物なのか、そして地球はどうなっていくのかの課題に至るのです。

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〔(多事奏論)国葬と岸田首相 実にこわい、剣が峰で気概なし 朝日 高橋純子 2022年9月28日 

 この原稿は、国葬がどのように執り行われ、そのとき日本社会がいかなる相貌(そうぼう)をあらわしたかを最後まで見届けることなく締め切りを迎えています。「弔意の強制はしない」とされましたがみなさん、どうでしたか? 私は「静粛に」という抑圧をひしひしと感じつつ、パソコンに向かいました。強制でなければ自由というわけでは決してない。国葬は、やるべきでなかった。

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 自民党二階俊博元幹事長は岸田文雄内閣の支持率下落を受けて「安全運転だけではダメだ」と注文をつけたそうだけれど、はて、岸田首相はそもそも「安全運転」だっただろうか? 違うな。

 確かにスピードはまったく出ていない。だが、ふらふらと右に寄ったり左に寄ったり、ウィンカーを出しつつ直進を続けたり、「なんでいま?」というタイミングでアクセルを、「どうしてここで?」な場所でブレーキを踏んだりする。周りがよく見えていないのか、はなから見ちゃいないのか、状況と動作がかみあっておらず、何をどうしたいのか意図がさっぱり読めない。

 これは実に地味にこわい。猛スピードで周囲を威圧し、およそブレーキを踏むことがなかった安倍晋三内閣の「暴走運転」に勝るとも劣らぬこわさである。要するに首相はドライビングセンスがない。つまり政治センスがない。ああ、身もふたもない。

 国葬をやると表明してから国会で説明するまでの2カ月近く、反対の世論が雪だるま式にふくらむのを、なんら手を打たずに放っておいたことが首相のセンスのなさをなにより物語っている。そしてようやく臨んだ国会では、国葬をやる理由(1)(2)(3)(4)を並べ、それを何度も「丁寧に」繰り返すだけ。異論と対峙(たいじ)しているという緊張感も、己の弁舌で窮状を打開してみせようという気概のかけらも感じられない。

 国葬が旧統一教会にお墨付きを与えることになるのではないか。評価が割れる安倍氏国葬を行う時、社会に生じる亀裂をどう修復するつもりなのか――あまたの問いを煎じ詰めれば、「あなたはいったいこの国をどこに連れて行くつもりなのか?」。

 まさに首相の真価が問われる、のるかそるかの大舞台を自ら呼び込んでしまっているのに、ご当人はどこ吹く風、剣が峰でフォークダンス。実に地味にこわい。

 首相はどうもわかっていないようだが、「聞く力」を掲げるからには強権的で新自由主義的な安倍・菅路線を変えてくれるかもと、支持・不支持の判断を留保した中間層が少なからずいた。首相の存在感のなさが好感につながるという奇妙な幸運に浴していたのに、国葬を「独断」し、うかつにも示してしまった。無用の存在感を。

 世論を二分する重大な判断をする以上は、前面に出て、自らの「肉声」で勝負せねばならない。説明と、説得と。その能力も覚悟も欠いたまま、保守層にこびを売るという安易な道を選び、結果、中間層に見切られてしまったのだから世話はない。

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 社会の分断をもたらす国葬を実施した首相の罪は重い。だからこそ、あえてひとつ提案したい。自ら先頭に立って安倍氏を盛大に悼んだことを奇貨として、「安倍政治」との決別を宣言し、国葬を新たな出発の機会と位置づけてしまってはいかがか。いまとなっては唯一の、意味ある国葬の「使い道」であり、首相にとって、日本政治にとっても起死回生のラストチャンスかもしれない。勝負に出る価値は十分あると考えるが、どうだろう?……って、答えは聞かなくてもわかる、ような気がする。

 それにつけても、安倍氏の「残像」をいまだ振り払えない岸田政権と自民党のどん詰まりぶりはかなり深刻だ。「一枚岩」の組織は強いようで、オルタナティブをはぐくめないもろさを別に抱える。「安倍一強」に酔いしれてきたツケは今後じわじわ回ってくることだろう。震えて待たれよ。

 (編集委員

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「安倍元首相は自らが生み出した『長期腐敗体制』の犠牲者です」 思想史家・白井聡が語る銃撃事件
小林 空   2022/07/27

連続在職日数2822日、憲政史上最長の政権を築いた安倍晋三元首相は、アベノミクス集団的自衛権の行使など、賛否両論の政策を推し進めた。またスキャンダルにまみれたモリカケ問題では、国民を二分する激しい対立を引き起こしもした。


2012年12月に成立した第2次安倍政権とは何だったのか。安倍氏が殺害されるひと月前、奇しくもその実態を論考した『長期腐敗体制』(角川新書)を上梓していたのが、思想史家であり政治学者の白井聡京都精華大学准教授だった。

長期腐敗体制・・・数々の無能、不正、腐敗・・恩恵にあずかる一部の既得権者を押し上げる一方で、多くの国民の生活は疲弊・・安倍氏自身も長期腐敗体制の犠牲者となったと言うべき・・・000

官僚への強力な権力の源泉を安倍政権は掌握し政治主導を制度としては確立したのです。
――そのため本書では、2012年体制は、「腐敗」「不正」「無能」の三拍子がそろっていると指摘されています。

モリカケ問題や桜を見る会など不正や腐敗もありましたが、特に無能さを露呈したのがアベノミクスでした。安倍氏は「株価が上がり、有効求人倍率は上がり、雇用創出に成功した」と主張しましたが、すべてはマヤカシだったのではないか。まさに今そのツケが回ってきています。00000

アベノミクスの柱は日本銀行を「政治主導」して行われた異次元の金融緩和でした。これのせいで、いま日本の経済政策はにっちもさっちもいかなくなっている。アメリカをはじめ諸外国がインフレに苦しみ金融引き締めを急ぐ中で、日米の金利差が拡大し、終わりのない円安にあえぐ結果になっている。年末には対ドルで150円という水準の円安に向かうとの観測も流れています。

そもそも異次元金融緩和はカンフル剤のようなもので、注射することで日本経済が活性化するきっかけをつくるという政策だったはずです。しかし、そもそも資金需要のない日本経済に、異次元緩和で大量のマネーを供給し続けただけでした。そのお金は日銀の当座預金に積みあがるばかりで、市中に流れ出ることはなく、新規産業も生まれなければ、労働者の待遇も改善しなかった。

雇用は非正規ばかりが増える一方で、給料も上がらない。こんな状態で、個人消費が喚起されるはずもない。さらには社会保障費は右肩上がり。そこへもってきて、いまはまた円安やエネルギー価格高騰の悪いインフレで、家計は圧迫されています。2012年体制の下で日本がどれほど貧しくなったか、目を覆うばかりです。日本人の経済生活は破綻に向かっています。

設備投資の観点からみても、エネルギー問題から見ても、深刻なのは再生可能エネルギーへの投資がまったく不足していたことです。世界的にもカーボンニュートラルが追求目標となっている中、自然エネルギーへの転換において、日本はヨーロッパ諸国から大きく水をあけられる状況になっている。

10年前、20年前には、京セラや三洋電機(現パナソニック)が世界でトップを走っていた太陽光発電の電池パネルの生産は、中国のメーカーに抜かれて見る影もありません。そして今、電力不足で苦しむという新興国と変わらない状態になっている。

「安倍元首相は自らが生み出した『長期腐敗体制』の犠牲者です」 思想史家・白井聡が語る銃撃事件
現代ビジネス
「安倍元首相は自らが生み出した『長期腐敗体制』の犠牲者です」 思想史家・白井聡が語る銃撃事件
「縁故を優先する考え方」が蔓延る
――異次元の金融緩和は日本の経済界を突き動かすこともできなかったということですね。そして、景気は上向くことはなく、いまも金融緩和をやめられない。これが円安を招いている実態と言えそうです。

アベノミクスの失敗は、政治家だけでなく経済界にも大きな責任があると思います。コロナ禍でムリヤリ開催されたオリンピックが典型ですが、国策にはどんなに馬鹿らしいことでも「万歳! 万歳!」と言って一枚かませてもらおうと必死になるが、本来、やるべき政策が民間からボトムアップされることはありません。

そして、労賃カットと円安誘導という最も安易な手段で収益確保です。経営者として本来あるべき展望を欠き、2012年体制を支えることで、利権にぶら下がる商売を続けてしまった。

日本の今の在り方はネポディズム(ものごとの正しさよりも縁故を優先する考え方)資本主義と呼んでもいいでしょう。他方、政治的には権威主義国家となり下がってしまった。

――鯛は頭から腐ると言いますが、まさに「無能」さを露呈した頭(トップ)から日本経済の衰退は進んでいる。それなのに、それをくつがえす民間の活力が湧き上がらない。

その通りです。だから長いものに巻かれることしか考えない人間が増えている。文化面で見るべきものがあればまだ救いがあります。歴史的に見ても国の衰退期には、退廃的で美しい文化が生まれることもありますが、それも感じることはできません。政治、経済、文化、どの面をとっても閉塞と停滞しかありません。精神的に死に絶えつつある気すらします。

ロシア交渉も成果なし
――安倍政権で比較的評価の高い外交・安全保障についても、白井さんは「目も当てられない」と指摘しています。

それは長期的な視点やそのための主体性、自主性が感じられないからです。これは2012年体制の外交に首尾一貫しているのですが、「国際社会で日本が生きていく道はこうなのだ」という確たるビジョンがない。

安倍政権は、前半期には中国を抑え込むために対米追従・従属を深める外交でした。そのためにTPPに参加したし、また、集団的自衛権の行使容認というほとんど改憲に等しいことまでやりました。ところが後半になると徐々に対米従属一本足打法を修正し始めます。

顕著なのが中国への接近です。そもそも日本経済が中国との関係なしに成り立たないことは、分かりきったことでした。その現実に促される形で、関係改善を余儀なくされたというのが真相でしょう。

実際、2020年には中国の習近平国家主席国賓として招くはずでした。これはコロナ禍で中止となってしまいましたが。しかしながら、総理を退任してからの安倍氏は、台湾有事をことさら宣伝するようになり、対中緊張を煽りました。

要するに、何がやりたいのかさっぱりわからないのです。こうしたビジョンのなさは外交では致命的に作用します。それがロシア交渉で露呈しました。

2014年ロシアがクリミア併合を行いアメリカとの緊張が高まっている最中、安倍氏北方領土問題の解決と平和条約締結を目標としてプーチン大統領と27回首脳会談を行いました。

米露緊張の中でのロシア交渉に、プーチン大統領は「アメリカの機嫌を損ねるのはわかっているよな、覚悟しているのか」と様々な形で問いかけます。ところが、日本からの回答はなく、ここでも安倍氏の外交姿勢は曖昧なままに進められた。当然、プーチン大統領の日本への不信を払しょくできるはずもなく、ロシア交渉は何の成果も得られませんでした。

コロナ対応に追われた菅政権での外交はほとんどなく、岸田政権になってからは再び対米従属一辺倒へと戻りつつあります。

――ウクライナ情勢を見ても、米中対立を見ても、これから地政学的に大きな変化は避けられそうにありません。

ロシアの侵攻に対してウクライナは健闘していますが、ロシアが地力で勝るという現実が徐々に明らかになってきました。さらにアメリカ主導で対露経済制裁が行われているわけですが、参加しているのは先進国だけ。制裁を掛ければロシアは立ちいかなくなるだろうという見込みで始めたわけですが、あまり効いていない。現実問題として先進国に世界をコントロールする力などないことが証明されつつあります。

そういう混沌とした世界情勢の中で、現状分析もあやふやでビジョンを明確に示さない2012年体制が対応できるのか。難しいだろうと言わざるを得ません。

――ビジョンのない長期腐敗体制は、なぜ生まれてしまったのでしょうか。

無能と不正、腐敗の体制がなぜできたのかを問うべきでしょう。今回の参議院選挙でも自民党が大勝したわけですが、それは国民がこの体制を支持し続けているからにほかなりません。

本来、民主主義国家では、国民の不満が高まれば為政者にノーが突き付けられる。イギリスでは7月7日にジョンソン首相も辞任に追い込まれたわけですが、きっかけはコロナ禍の行動制限に違反してパーティを開いていたことでした。こうした権力者の不正を罰する国民の姿勢は、少なくとも2012年体制ができてから、日本では影を潜めています。

批判に値することが続けばトップのクビが挿げ替えられる。この当たり前の民主主義のメカニズムが、日本では働かなくなっている。もはや日本では選挙が機能していないのではないかと、選挙をやる意味すら問われる状況になってきてしまっています。

その意味で、冒頭に語ったように安倍氏は2012年体制の犠牲者と言えるのではないでしょうか。本来であれば、無能と不正、腐敗が明らかとなれば、どこかでブレーキがかかるはずだったのですからね。

国葬に反対する理由
私自身はもう、一つ一つの選挙の結果に一喜一憂しなくなりました。結局は今のような政治状況を作っている社会の質、社会を構成している国民の質が問題の本質なのです。

経済的に苦しくなっているのに、投票率は上がらない。明らかに統治パフォーマンスの低い「長期腐敗体制」を支持してしまう。危機を回避する本能が、日本からどんどん失われているのではないか。日本人は生命力を失いつつある。そんな危機的な状況に陥っているのだと思います。

最後に、安倍元首相の国葬に私は反対です。最大の理由は、国家・国民に対する貢献がないからです。岸田首相は、民主主義への挑戦には屈しない意思を示すというようなことを言っていますが、そもそも山上容疑者による犯行は民主主義への攻撃ではない。家庭と彼個人の人生を台無しにされたことによる恨みが動機です。

選挙期間中の犯行となったのは、やりやすかったからにすぎない。ですから、国葬の岸田政権による政治利用は明らかであって、それは2012年体制を維持するのだという意思表明にほかなりません。岸田氏も、国葬を支持する人たちも、自分の権力の維持や自分の自意識のかさ上げのために、安倍氏を亡くなってまで利用するのはいい加減にしろ、と言いたいです。

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