コロナとオリンピック 2021/09/05

「仕事から帰宅・・息子だけ夕飯・・週の半分以上は自分の夕飯を抜く生活・・1年以上・・・」という記事が、いつまでも頭に残る。コロナで仕事を失う母子家庭の話は、自分の子供のころを思い出しながら、日本だけでなく、オリンピックの役員の問題に限らない。歴史的にも、現在も残り続ける・・人類の課題なのか。そして、日本は世界的にも、女性の地位が最低レベルを保っている。

オリパラは、さまざまな形で、社会・世界の課題を浮き彫りにしたが、その背景をどこまで見るか・・それがひとりひとりの目に見えるかどうかの課題でもある。


〔・コロナ危機と経済:痛み集中、追い込まれる女性 非正規職員、夕食は息子だけ 朝日 2021年7月14日 

 関西の市役所で非正規職員として働く40代の女性は、中学生の息子と2人で暮らす。仕事から帰宅すると息子の分だけ夕飯を用意する。食費節約のために、週の半分以上で自分の夕飯を抜く生活は、もう1年以上になる。

 最初の緊急事態宣言が出た昨年4月、パート先から解雇を告げられた。会社の業績が傾き始めていたからだ。2週間後に失業したが、会社が支払うべき「解雇予告手当」はもらえず、頼りにしていた失業給付も受け取れなかった。収入を増やそうと、一時期、派遣の仕事を掛け持ちしていたことが裏目に出て、受給に必要な要件を満たせていなかった。

 「家賃が払えなくなったら」と恐怖を感じていた。ようやく見つけたのが、いまの市役所の仕事だ。時給1千円で、前の会社より200円低い。朝9時から夕方5時過ぎまで働いても手取りは月10万円台前半。月1万円の児童手当と、4万3160円の児童扶養手当を足しても赤字で、わずかな貯金を切り崩して暮らす。息子には塾をやめてもらった。市役所とは今年度末までの契約で、その先は見えない。

 市役所の窓口に立ち、失業した障害者や住まいを失った人、家庭内暴力(DV)に苦しむ人らに出会う。「より貧しい人、より弱い立場の人に、『痛み』が集中している。コロナは不平等です」

 「シー・セッション(She―cession=女性不況)」。コロナによる現在の経済状況は国内外でそう呼ばれる。女性が男性以上に大きなダメージを受けているとして、できた造語だ。男性労働者が多い製造業を中心に大きな影響が出た2008年のリーマン・ショックとは異なる。

 働き手への影響は、国内でも女性に顕著だ。感染拡大が本格化した昨年4月の女性の就業者数は前年同月より53万人減り、27万人減だった男性の2倍の落ち込みに。同じ4月に跳ね上がった休業者数も、女性は前年同月比249万人増で、増加幅は男性の1・5倍となった。

 シングルマザーへの影響も深刻だった。内閣府によると昨年7~9月期は、女性全体では仕事から離れた人の多くが職探しをせずに「非労働力化」する傾向に。一方でシングルマザーの完全失業率は予測値より3%分悪化。子どもを養うために仕事を探し続け、それでもなかなか見つからない状況があったという。

 経済への制約が長引けば、脆弱(ぜいじゃく)な生活基盤しか持たない人々を更に追い詰めてしまいかねない。

 ■切り捨て、社会に損失

 なぜコロナの影響は男女で異なるのか。

 主に三つの要因がある。打撃が大きかった飲食や宿泊業界は、働き手の6割が女性だ。そもそも働く女性全体の半分が非正規労働者で、雇用調整の対象にされやすい。さらに家事・育児の分担が女性に偏る構造のなかで一斉休校や外出自粛で増えた負担が上乗せされ、離職を選ばざるを得なかった女性も多い。

 こうした傾向は、世界の多くの国で共通する。男性より賃金が少なく貧困に陥りやすい状況も似ている。在宅時間が増えたことでDVや性暴力も増加した。

 「もろさ」を克服するのに何が必要か。女性の労働問題に詳しい日本女子大の周燕飛(しゅうえんび)教授は「コロナ支援政策にもジェンダー視点を取り入れることが重要」と話す。政策の効果は、ジェンダー格差が大きい社会ほど男女間で差が出やすい。それを意識した上で、女性たちのニーズなどに即した対応が求められるという。

 たとえば、休業手当を払った企業に国が支給する雇用調整助成金。コロナ下の特例が多くの人の雇用維持に役立ち、12日には特例の延長を自民党が政府に要望した。だが、女性に多いシフト制などの働き手には休業手当を払わない企業が多く、そうした人たちへの政策効果が十分ではない実態がある。

 昨年、世帯主へ一括支給された1人10万円の特別定額給付金。世帯主の大半は男性という現状のなか、支援が必要な女性たちに十分に届かない恐れがあるとの批判も起きた。

 雇用の面では、ITなど需要がある産業への労働移動が今後求められる。新しい技術を習得するための職業訓練が重要で「週末に受講できたり、託児サービスをつけたりと、女性たちも利用しやすい仕組みにするべきだ」と周さんは語る。

 貧困家庭の子どもの学習支援をするNPO法人「キッズドア」は母親向けにウェブデザインやプログラミングのオンライン講座の無料提供を始めた。週末に自宅で受けられると人気で、10人の定員に100人超の応募があった。

 渡辺由美子理事長は言う。「稼げるように支えれば家計の安定につながる。個人消費にも貢献し、社会保障の担い手にもなり、経済全体にとってプラス。女性の貧困を『自己責任』で切り捨てれば、社会にとって大きな損失です」

 ■<視点>施策、ジェンダー視点を

 「女性は家計の補助。賃金は安くてもいいし、雇い止めしてもいい」。取材を通じ、社会にはいまもそんな認識が根強いと感じる。

 仕事を失うことは、収入が断たれるだけにとどまらない。孤立し、経済的な先行きへの不安から心身の健康を損ねやすくなる。DVへの抵抗力も下がり、子どもの成長や教育水準など影響は次世代にも及ぶ。

 今月、東京都内のカフェで女性向け相談会が開かれた。弁護士ら支援者側も全員が女性。花を飾り、託児スペースも設置、野菜や生理用品なども持ち帰れるようにした。相談者を否定する言葉は使わないルールも徹底。女性たちが来やすいよう工夫をちりばめた。

 政府の支援策はどうだろう。女性にとっての利用のしやすさや実施した場合の効果など、十分に考慮されているとは言いがたい。そうしたジェンダー視点がいまこそ必要だ。

 コロナで露呈した私たち社会の「弱点」。見て見ぬふりは許されない。(高橋末菜)

 

池澤夏樹さん「ウソにまみれた五輪」 感動の消費で終わらないために  聞き手・斎藤徹     2021年8月9日 
 コロナ禍のなか強行された今回の東京五輪。招致活動から開催まで底流にあるのは何か。作家・池澤夏樹さん(76)に聞いた。

 今回の東京五輪全体を総括すれば、あまりにもウソが多かった五輪ということになるかと思います。

池澤夏樹(いけざわ・なつき)
1945年、北海道帯広市生まれ。作家、詩人。ギリシャや沖縄、フランスに住み、2009年から札幌市在住。芥川賞を受賞した「スティル・ライフ」のほか、「静かな大地」や「カデナ」など作品多数。朝日新聞朝刊で小説「また会う日まで」を連載中。

 招致段階で、当時の安倍晋三首相は、東京電力福島第一原発事故について「状況はコントロールされている」と発言しました。原子炉建屋内にはメルトダウンした核燃料が取り出せないままで汚染水も日々たまっているなど、事故が今も収束していないのは周知の事実です。

 当初盛んに言われていた「復興五輪」もウソ。結果として、東北復興とは何の関係もない五輪でした。

 招致委員会が提出した立候補ファイルでは、開催時期の東京の気候が「温暖でアスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候」とうたっていました。

 池澤さんはインタビューの後半で、1964年の東京大会と今回の大会との違いを語ります。そして、自らが住む札幌市が2030年冬季五輪の招致を目指していることにも異議をとなえます。

 8月の日本は、北海道も含め、どこも暑いことを、僕たちは知っています。大会開催中、テニスのジョコビッチら、選手からは異常な暑さに怒りの声が上がりました。

 最大のウソは、日本政府が、「国民の命と安全を最優先する」と言い張り、五輪開催に伴う新型コロナ感染拡大のリスクを無視し、開催を強行したことです。 〕

世界の人々の意識とは・・   2021/05/14

コロナが始まって1年が経過・・オリンピックを前にして、日本はその対策ご遅れて、国民の疑問とともに、外国からの声も否定的なものが目立ってきた。私は、東京の決定の段階から、政治的なウソで獲得したことに、そしてスポーツに対する人々の意識と、社会的な困窮者たちの現状とのギャップに疑問があったことも関連している。そしていま、コロナとともに米国大統領選ではっきりした米国と世界の人々の意識状況の変化が見えてきて、民主主義にも疑問はあるが、社会の世界の人々の意識構造の移り変わりに、最近になって気づかされている。

〔 民主主義、どこへ向かう? コロナ禍で「退潮」加速  佐藤武嗣  朝日 2020年12月20日
日本の外交・安全保障政策を立体的に捉える 民主主義体制が世界で退潮しはじめ、中国やロシアなどの独裁・専制政治といった権威主義体制が勢いを増している――。
 そう聞いて、「ん? それは『米国第一』を掲げたトランプ大統領の登場や英国の欧州連合EU)離脱で、情勢を誇張しているだけではないのか」と思う方も多いと思います。ところが、実態は我々の想像よりはるかに深刻なようです。新型コロナウイルスの感染拡大によって、「民主主義の退潮」に拍車がかかっている、というのです。
 私は、外務省や防衛省などの役所取材に加え、米政府関係者や日米専門家、学者、シンクタンクなどの勉強会やイベントにも参加しています。そうした外交・安保コミュニティーのなかでも、にわかに「民主主義の退潮」がクローズアップされつつあり、国際社会の地殻変動を感じています。
 安全保障・軍事防衛問題に関する理論的・実証的な研究を行う国際安全保障学会の年次総会が今月初旬にあり、私も参加しました。そこでは「民主主義と権威主義のどちらに優位性があるのか」が議題の一つに浮上しました。
 「昨年、世界で民主主義国・地域は87で、非民主主義国は92。18年ぶりに民主主義国が少数派に転落した」
 報告者から、そんなスウェーデンの調査機関「V-Dem」のリポートが紹介され、このコロナ禍で「中国型監視社会モデルの方が効率的に機能しているように見える」と懸念が示されました。別の報告者も、監視社会や個人のプライバシー侵害を嫌う民主主義国では、規制が政府の意のままにいかないと指摘。それを無視できる権威主義体制は「効率的でデジタル社会と相性がいい」。そんな危惧も語られました。
 コロナ発生前のデータをまとめたV-Demの報告書よりも、より深刻なのは、コロナを受けて世界の民主主義の動向を今年10月に米NGO「フリーダムハウス」が発表した報告書です。「コロナウイルスの発生以来、80カ国で民主主義と人権の状況が悪化している」とし、こう指摘しています。
 「当局者や治安機関が民間人に暴力を振るい、正当な理由なしに人々を拘束し、法的権限を逸脱している。政府はまた、公衆衛生を確保する必要限度を超え、特別な権限を自らに与えるのを正当化するため、パンデミックを利用している」
 こうした世界的な「民主主義の退潮」に懸念を抱き、日本で活動しているのが日本国際交流センターです。2018年、米国やアジアの専門家と「民主主義の未来プロジェクト」を立ち上げ、米国やアジアの専門家と対話を深め、世界における民主主義の現状に関するニュースもホームページで発信しています。
 活動の中心的役割を担っているのが、国連前事務次長で、現在も国連事務総長特別顧問を務める高須幸雄さん(74)です。同センターが11月24日に主催し、英語で行われたイベントに、私もウェブで参加しました。司会役の高須さんは「民主主義の危機が元々あったところに、新型コロナ感染症拡大が起き、ますます切迫した問題になっている」と問題提起しました。
 韓国の学者からは「ロックダウンや隔離政策で、民主主義国家でも人々の自由がむしばまれ、反対勢力を抑え込む強権政治も見受けられ、報道の自由も抑圧されている。世界で民主主義を再生させ、衰退に歯止めをかけるリーダーも不在だ」と訴えました。一方、民主的に選ばれたモディ首相率いるインド出身の学者からも「コロナでは脆弱(ぜいじゃく)な人ほど最も打撃を受けている。インドでも権威主義的対応が目立ち、民主主義が後退している」との報告がありました。
 中国は自国で感染拡大を封じ込め、経済回復をどの国よりも早く脱したように見える半面、なりふり構わぬ「マスク外交」や香港での市民抑圧で批判も浴び、国際的なイメージ低下を招いているようにも見えます。ですが、香港の民主派議員を逮捕するなど、習近平(シーチンピン)体制が強権を振るうために成立させた「香港国家安全維持法」に、どれだけの国がノーをつきつけたのでしょうか。
国安法「支持」、「反対」の2倍
 この中国の国安法について、6月の国連人権理事会で審議が行われ、「反対」を投じたのは日本や英国、豪州など27カ国。一方、国安法への「支持」を表明した国はエジプトやサウジアラビア北朝鮮など57カ国で、「反対」の約2倍でした。
 米国のトランプ政権は18年に、国連人権理事会から離脱を発表しています。市民抑圧や言論の自由の封じ込め、不当逮捕など問題の多い中国の対応が、国連の場で支持される格好になっているのには、驚きを禁じえません。
 日本国際交流センターのイベント後、改めて高須さんにインタビューしました。高須さんがプロジェクトを立ち上げたのは「日本が民主化を支援してきたカンボジアミャンマー、フィリピンでどんどん民主主義が劣化している」と懸念したからだそうです。
 また、高須さんはコロナの影響について「報道の自由を制限し、プライバシー管理を強化し、民主的選挙を延期し、少数派や市民社会、特に反政府勢力を弾圧するなど、コロナという危機を利用した強権政治がはびこっている」と危惧を語りました。米国やアジアの学者らと議論した結果を踏まえ、米国の戦略国際問題研究所CSIS)のマイケル・グリーン氏らと、民主主義における大事な原則「サニーランズ原則」を発表しました。
 そこでは「政府は、自由・公正な選挙と、透明性・適切な行動を通じて、国民に説明責任を果たし、公共財の公平な分配、透明性ある行動、すべての国民を包含する政策を通じて、人間の尊厳と基本的価値を守り促進すべきである」といった「多様な民主主義」や、「透明性と説明責任のある政府の統治を確保するうえでの必須条件」として「独立したメディア」が存在するかなど10項目を掲げ、各国や各機関、市民らの幅広い連携を通じて、こうした民主主義的価値観を尊重する規範を国際社会やアジアで浸透させようと試みています。
「歴史の終わり」 その先の「不満」
 この原則を見ていると、民主主義を標榜(ひょうぼう)している日本の政権でも、説明責任の回避や、日本学術会議任命拒否をめぐる透明性の欠如など、日本の「民主統治度」に首をかしげざるを得ない項目がいくつかあるのにも気づかされます。
 この「サニーランズ原則」を出すにあたり、当初米側は「Democratic Unity(民主主義の団結)」という言葉を提案したそうですが、高須さんは、排他的に米国的な民主主義史観を押しつけるのではなく、「Democratic Governance(民主的な統治)」を掲げることで、多様な民主主義形態の国のネットワークをアジア主導で広げる必要があると主張したそうです。
 米国では、バイデン次期大統領が「民主主義サミット」の開催を公約していて、どんな国が参加し、どのようなメッセージを出すのか注目されます。
 民主主義はどこへ向かうのでしょうか。
 米ソの冷戦が1989年に終結してソ連が崩壊し、グローバル化によって自由や人権、法の支配といった民主主義的価値観が世界に広がり、国際秩序を形作っていく――。冷戦終結を受け、米政治学者のフランシス・フクヤマさんは、当時の著書「歴史の終わり」で、民主主義に軍配が上がり、民主主義か、共産主義か、というイデオロギー闘争の「歴史」は「終わった」と論じました。
 私もそう確信していました。ですが、そのフクヤマさんが今年10月、「リベラリズムとそれへの不満」と題するリポートを発表。「今日幅広いコンセンサスがあるのは、世界の多くの地域で民主主義が攻撃を受け、後退しているということだ。中国やロシアのような権威主義的国家だけでなく、多くの民主主義国家で、選ばれたポピュリストたちによって、民主主義が挑戦を受けている」。そう指摘しました。
 日本はどのような役割を果たすべきなのでしょうか。高須さんは「ASEAN東南アジア諸国連合)をはじめ、アジア太平洋地域では日本への信頼も厚く、民主的価値を共に追求するために、政府だけでなく、市民社会のレベルでも連携を広げていくことが必要ではないか。安定的な国際環境をつくることは日本にも利益になる」と語ります。
 日本の外交・安全保障政策の大方針である国家安全保障戦略にも、ミサイル防衛などと並び、「日本の対外政策の中心として、民主的な統治の問題を据えるべきだ」と問題提起しています。 〕

国民という人種  2021/02/21

タンクから汚染水が漏れ、地下水は山側から流れ込み、汚染されて港湾に流れ出る「制御不能」の中で・・・安倍は、「フクシマは統御されて、アンダーコントロール」と得意の大ウソを言って・・・東京にオリンピックを引っ張ってきた。
そしていま、日本ではオリパラの組織委員会長の「女性差別発言」で騒いでいるが、そんな社会と政治を支えている国民とは何なのか。

米国では「民主主義」とか、トランプの「民衆の怒りをあおる政策」の分断で先が見えない中で・・香港でもミャンマーでも、その背後の中国共産党の権力の拡大魂胆が隠し切れない。バイデン・ハリスの政策に見える「弱者・貧困に向けた政策」が、どれだけ広がりを見せるか見守るしかない・・・。


〔(社説)民主主義の試練と世界 弱者への視点を強みに  朝日  2021年1月3日
 コロナ禍という脅威が目の前の世界に広がっている。

 多くの国が有効な対策を探しあぐね、人びとが政府へのいらだちを隠さない。

 その不安や怒りは、ときに国のかたちや体制に対する疑念にもつながる。

 深まる混迷のなかで、民主主義という制度もまた、そのありようが問われている。

 ■勢いを増す権威主義

 パンデミックによる世界の累計感染者は約8400万人。うち4分の1近くを占め、もっとも多い国が米国である。

 一方、ウイルスが最初に確認された中国では昨春以降、新規増加が抑えられ、発表累計で米国の200分の1にとどまる。

 覇権を争う2大国。民主主義の代表格を自任してきた米国が威信を失い、権威主義を強める中国が感染を抑え込む。

 新型コロナはいまだに謎が多い。比較は難しいとはいえ、体制の優位をめぐる議論が一部に生じるのは無理もない。

 社会の利益を安定的に確保するのは、民主主義か、権威主義か――それはコロナ以前から世界に投じられた問いだった。

 日米欧の対中意識は軒並み悪化しているが、新興国や途上国では中国式のような統治に近づく動きがあとを絶たない。

 スウェーデンの国際調査機関によると、市民の自由や政治参加などの基準に照らして「民主主義国」と認定できる国の数は一昨年、18年ぶりに「非民主主義国」の数を下回った。

 それにコロナが拍車をかけており、さらに相当数の国が民主主義を後退させる「高い危険」の状況に陥っているという。

 先進国でも民主主義への視線はかつてと同じではない。

 グローバル化に伴う格差の広がりや中間層の揺らぎ、移民や難民問題などを背景に、多様な価値観を認めあう民主主義のあり方は論議を呼んできた。

 トランプ米大統領ら一部の指導者は、問題の根源に取りくむどころか、逆に民衆の怒りをあおることで人気取りを図った。

 ■政治の慢心に戒めを

 コロナ禍はそうした民主政治の劣化に追い打ちをかけたとみるべきだろう。選挙の勝者が社会全体を底上げする責務を忘れていた問題が、疫病の恐怖のなかで噴き出したのだ。

 一方の権威主義もまた、多くの矛盾に直面している。

 都市を全面封鎖するような強権策は得意だが、情報を共有して市民の自立的な行動を促したり、地域の事情に合う対応をとったりする施策では権威主義は民主社会に及ばない。

 中国の情報隠蔽(いんぺい)の体質がどれだけ感染被害を広げたか。共産党言論の自由を封じるのは、体制の危うさを覆い隠すのに必死なことの表れでもある。

 「民主的諸制度は支持者に満足される政策を生み出す限りにおいて尊重される」と、体制比較の研究で著名な政治学者フアン・リンスは記した。今で言えば、コロナ禍を克服し、人びとが未来に希望を見いだせるような方策が求められている。

 「民主主義は状態ではない。行動だ」。米副大統領に就くカマラ・ハリス氏は昨年の大統領選の勝利演説で語った。

 「民主主義は保障されているものではなく、私たちが守ろうとしてこそ強いものになる」

 トランプ現象の果てに米国が得たその教訓は、世界にとっても重い意味を持つ。民主主義とは、政治の慢心のたびに見失う正道を確かめ、自らの歩みを修正する不断の努力なのだ。

 ■多様性が生む強さ

 コロナ禍で閉鎖された都市・武漢の作家、方方氏は「国の文明度を測る基準とは何か」との示唆的な論考をしている。

 「高いビルがあるかでも、強力な武器やハイテクがあるかでもない。唯一の基準は弱者にどういう態度を取るかだ」

 全体の秩序を重んじる権威主義に対し、個を尊ぶ民主主義が持つ強みは、そこにある。声なき声に耳を澄まし、誰も置き去りにしない決意が求められる。

 日々の暮らしに不安を抱える低中所得層、コロナ禍と闘う医療・物流の人びと、子育てに悩むひとり親、病や障がいと生きる人びと……。多様な人びとが参画し、ともに難題に取り組む共同体を築かねばならない。

 海外を見れば、隣の台湾にも学ぶ点が多い。自らを「性別なし」とするオードリー・タン氏はIT相に当たる職を務め、コロナ対策で効果的なマスク管理システムを築いた。

 「私は政府とともに働いている。政府のためにではない」。そう語るタン氏のような存在が能力を発揮できる社会こそ、民主主義の強さだろう。

 冷戦時代、ケネディ米大統領は「多様性が安全な世界を生み出す」と説いた。

 コロナ禍が生んだ人々の不安を払拭(ふっしょく)するうえでも、社会の分断を埋める必要がある。

 対立する意見が交わることのできる対話の場を取り戻す。弱者や少数者への視点を守り育てる。そこから民主主義の再生を図っていかねばならない。

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「米国民結束に全霊」 バイデン大統領就任 パリ協定・WHO、国際協調へ回帰 朝日  2021年1月22日
 ジョー・バイデン元米副大統領(78)が20日、ワシントンの就任式で宣誓し、第46代大統領に就任した。就任演説では「米国人と我々の国を結束させることに、私は全身全霊を捧げる」と訴え、「米国は同盟関係を修復し、世界に再び関与する」と宣言した。バイデン氏は同日夕、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰や、世界保健機関(WHO)からの脱退手続き中止を決定し、トランプ前大統領の「米国第一」から脱却し、国際協調路線に回帰する姿勢を明確にした。

 連邦議会議事堂で行われた就任式では、カマラ・ハリス前上院議員(56)も副大統領として宣誓をした。女性初、黒人初、アジア系初の米副大統領となった。

 バイデン氏は約20分間の就任演説の大半を割き、トランプ氏のもとで深まった分断を克服しようと、国民に結束を呼びかけた。「すべての米国人の大統領になる。私を支持してくれた人のためと同じように、支持しなかった人のためにも一生懸命闘う」と述べた。

 バイデン氏はまた、米国が新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う経済危機▽人種差別問題▽気候変動▽過激主義や白人至上主義などの台頭――といった問題に直面し、史上最も困難な時期の一つだと指摘。「これらの困難を克服し、米国の魂を回復して将来を安全にするためには、言葉より多くのことが必要だ」として、米国民の「結束」の必要性を強調した。

 就任式の特設ステージは、トランプ氏の支持者による議事堂襲撃事件で占拠された。バイデン氏は「暴徒たちは暴力を使えば、人々の意思を沈黙させ、民主主義の働きを止められると思った」と非難し、「それは実現せず、今後も実現しない」と誓った。

 襲撃事件を受け、ワシントンは州兵2万5千人が警備にあたる厳戒態勢で、例年は数十万人が集まる議事堂隣の緑地帯「ナショナルモール」も閉鎖された。新型コロナ感染拡大の予防もあり、出席者の数は2千人程度と厳しく限定された。

 バイデン氏は就任式後、ホワイトハウスに移動。大統領執務室で、17の大統領令などに署名した。パリ協定への復帰、WHOからの脱退中止のほか、イスラム諸国からの入国規制の破棄▽新型コロナの感染拡大を抑えるためのマスク着用の義務化▽国境の壁建設の中止――などを決定した。いずれもトランプ氏の考え方や政策を否定し、大きく転換を図るものだ。

 一方、トランプ氏は20日午前中に邸宅のあるフロリダ州に移動し、就任式を欠席した。現職大統領が後任の就任式を完全に欠席したのは、南北戦争後の1869年のアンドリュー・ジョンソン大統領以来だ。(ワシントン=香取啓介、園田耕司)


 ■バイデン大統領の就任演説のポイント

・米国はパンデミック、経済危機、人種差別、気候変動などの危機に直面

・国民の結束が求められる。私たちは敵でなく隣人。敬意をもって接することができる

・事実をねじ曲げる文化を拒否し、赤と青、地方と都市、保守とリベラルを対立させる、礼節を欠いた戦争を終わらせなければならない

・同盟関係を修復し、再び世界に関与していく。単に力を示して主導するのでなく模範となって導いていく。〕

コロナ・・どこに目を向けるか   2021/01/16

冬を迎えて、海外でも日本でも、コロナの被害者が増え始めて、年を越して春までどうなってしまうのか・・大変に気がかりです。経済的にも、母子家庭など、不安定な仕事の人たちや若い人たちの中にも、仕事を失って先が見えなくなっている・・社会の底辺にいる人たちの姿が、TVや新聞紙上にも見られるようになった。
だが、朝日の記事に見られるように、政治にも見捨てられたような人たちに、どこかで必ずのように、そんな人たちに救いの神が現れるのは、頭が下がる思いだ。

〔 職も住まいも「明日どうなる…」 炊き出しの列、若者も多く 朝日 2020年12月15日
炊き出しに集まった人に弁当を配る支援団体のスタッフ(左)=11月28日、東京都豊島区東池袋3丁目、大山稜撮影

 新型コロナウイルスの感染の広がりとともに、職も住まいも失う人が増えている。日ごとに寒さが厳しくなるなか、どうやって年を越せばいいのか――。そんな不安が、年の瀬の街を覆っている。(大山稜)

 繁華街がイルミネーションで彩られるようになった11月下旬の夕方。暗やみに包まれた東京・池袋の公園で、路上生活者らを支援するNPO法人「TENOHASI」のスタッフがほのかなライトを頼りに弁当を配る準備を始めた。冷たい風が吹きすさび、気温がぐっと下がる。思わず身を縮めるほどの寒さでも、弁当を配り始める頃には、1メートル間隔で並んだ列が幾重にも折り重なっていた。

 白いごはんにコロッケと焼き鳥。「久々の、ちゃんとした食事です」。初めて訪れたという黒いパーカ姿の男性(38)が、弁当を手に話してくれた。財布に入っている金は千円に満たないという。「コロナのせいです。ぱったり、仕事がなくなりましたから」

 ■コロナで路上生活

 5年前に住み込みの新聞配達のアルバイトをやめ、派遣会社に登録。週に5日、主に物流会社の倉庫で商品整理の仕事をしながら、新宿や池袋のネットカフェを転々としてきた。認知症を抱える母親しか「緊急連絡先」に登録できる人がいないため、アパートは契約できないでいたが、仕事は途切れず、月収は20万円を超えることもあった。

 しかし、感染拡大の「第1波」に見舞われた今春、仕事が急に減り始めた。多くても週2日ほど。15万円ほどあった貯金を取り崩しながら暮らしていたが、「第2波」がやってきた夏にはほぼ底を突いていた。

 たまに入る仕事の収入でしのいでいたところに、これまでを大きく上回る「第3波」が襲ってきた。派遣会社に勤務希望のメールを何度送っても、「今はない」と即答される。感染防止のため、派遣先の現場では人手を絞っていると聞いた。

 半日2千円ほどのネットカフェの料金が払えず、外で過ごす日が増えた。新宿駅の地下通路の端っこで、じっと座り込む。シャッターが閉じれば、震える体をさすりながら街中を歩き続けた。新宿周辺の公園のベンチで、ひたすら寒さをこらえる。通行人や警察官から不審な目を向けられないよう、道で拾った文庫本を開き、読むふりをした。「寝てる間にバッグが盗まれたら」と2、3日、眠らないこともあった。

 ■38歳「地獄でした」

 「俺、明日はどうなってるんだろう……」。そんなことを考えながら、日が昇るまでの時間をやり過ごす。「地獄でした。このまま真冬を迎えれば、体がもたなかった」

 12月上旬、「TENOHASI」のスタッフに付き添ってもらい、生活保護を申請した。受給者向けのホテルにも一時的に入居できた。ホテルの近くで再び会った男性は「寝る場所があるだけで、身体的にも精神的にも全然違いますね」とほっとした表情を見せた。

 これから仕事やアパートを探すつもりだが、感染状況も雇用環境も、どうなるか見通せない。ぽつりとこぼした。「仕事がなければどうにもならない。コロナにはそろそろ勘弁してもらいたい」

 先月下旬の「TENOHASI」の炊き出しには、約290人が訪れた。昨年の平均と比べると、倍近いという。スマートフォンを見ながら、イヤホンを耳につけて炊き出しに並ぶ若者の姿が珍しくなくなっている。事務局長の清野賢司さん(59)は「生活困窮の若年化が、コロナ禍のもとで一気に進んでいる。リーマン・ショック時と違い、幅広い業種に影響があり、今年初めて路上で冬を迎えるという人も多いだろう」と話している。

 ■感染対策で持ち帰り弁当に 年越し控え、支援も課題

 雇用をめぐる環境は厳しいままだ。厚生労働省などによると、新型コロナが影響した解雇や雇い止めは12月上旬までに約7万5千人。非正規雇用の働き手は8カ月連続で減少し、10月は前年同月に比べて約85万人減った。

 新宿・都庁周辺で活動するNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の炊き出しでも、「初めて見る人が増えている」(大西連理事長)。11月末の食事配布には、例年の倍以上となる185人が訪れた。

 一方で、コロナ禍における支援団体の活動には、課題もつきまとう。感染防止対策のため、その場で食べる温かい汁物の提供はあきらめ、持ち帰りの弁当配布に切り替えている。活動させてくれる会場を探すのも容易ではない。密集を避けるため、ボランティアの人数は例年の半分ほどに減らす一方、並ぶ人は増え、人手が足りない。

 そんな状況のまま、年の暮れを迎えた。年末年始は日雇い派遣の求人が途切れるうえ、行政による生活支援の窓口も閉まる。真冬の野宿は命の危険も伴う。今年は路上で年を越す人が増えるとみて、都内の複数の支援団体は日程を調整し、年末年始の炊き出しや生活相談を切れ目なく行える態勢をとる予定だ。

 ■生活困窮者向けの主な支援

<ホームレス総合相談ネットワーク>

 ◆無料電話相談(0120・843・530、月~金曜日午前11時~午後5時)

NPO法人「TENOHASI」>

 ◆医療生活相談、食事提供など(東京都豊島区の東池袋中央公園、毎月第2、4土曜日午後4時~)

 ◆おにぎり配布(豊島区の池袋駅前公園水天宮そば、水曜日午後9時半)

NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」>

 ◆生活相談(新宿区山吹町362みどりビル2階、火曜日午前11時~午後5時)

 ◆食事提供(新宿区の都庁前、土曜日午後2時)

<東京都>

 ◆住居喪失不安定就労者・離職者等サポート事業(新型コロナの影響で住居を失った人を対象に、年末年始にかけて都内のビジネスホテルなど1日あたり計1千室を一時提供する予定。各区市の福祉事務所などで申請)〕

世界の危機は続く  2020/12/03

世界の動きを、主に朝日新聞から記録しながらひとこと書いているのですが、以前載せた・・身辺雑記 (OOKA Minami) を時に加えさせていただきます。

日本では、あの大ウソつきの首相が変わっても、同じような人物では何も変わらない。それにしても米国の選挙は見ていられない危うさで、どちらにも共通しているのは「そんな人物を支えている熱狂的な支持者である」ことです。


〔「身辺雑記」から 

10月7日(月曜日) 緊急事態条項の危険性
 行政長官に強大な超法規的権限を与える緊急状況規則条例(緊急法)が発動され、覆面禁止法まで施行された香港で、多くの市民がマスクをして大規模デモ。自由と民主主義を求める香港市民の怒りを、さらに増幅し拡大させるだけの愚行でしかない悪法発動。

 香港当局の強権発動は、安倍政権が目論む憲法改正とその延長線上にある(あるいは改憲とセットの)「緊急事態条項」導入の危険性(ヤバさ)を、一見平和に見えるこの日本にも余すことなく伝えてくれている。国民の権利や基本的人権の制限を可能とし、国家権力(政府)にあらゆる権限を集中させる、その先に待っている社会とはいったい……。香港で起きていることは他人事とは言えない。他山の石としてしっかり考えるべし。


10月13日(火曜日) 詐欺師か教祖か
 トランプ米大統領の選挙運動の集会映像を目にするたびに、胡散臭い詐欺師やインチキ宗教の教祖を思い浮かべてしまう。そう考えれば、信じ込んで熱狂しているトランプ支持者の狂信的な盛り上がりや精神状態も、なんとなくわかるような気がする。騙された状態はずっと続くのだろう。だって信者だから。アベ政治やスガ政治の支持者も同じか。


10月16日(金曜日) ここまで酷いとは
 福島原発の汚染処理水の海洋放出も、運転免許証とマイナンバーカードの一体化も、日本学術会議の任命拒否もすべてなし崩し。国会は開かず、まともな説明は一切せず、一方的に既成事実を積み上げていく。政権に批判的な存在は問答無用で排除する。聞く耳など持たない。独裁そのものではないか。アベスガ政治は戦前への一歩。いや二歩。いやいや三歩。気付いたらもう時すでに遅し、なんてことにならなければいいけど。

 そもそもマイナンバーの番号は他人には絶対秘密で、ほかの情報とは結び付けないはずじゃなかったのかよ。健康保険証も運転免許も銀行口座もアレもコレもリンクしたら、個人情報は丸裸にされて国家にすべて管理されてしまうではないか。この国でマイナンバーが受け入れられないのは、この国の政府が信用できないからだ。公文書の隠蔽や改竄や廃棄を見れば自明の理。不信感しかない。

 まともな政権ではないと思っていたけど、ここまで酷いとは。想像していたよりも、はるか斜め上をいく暴走に恐ろしくなる。アベ政治に勝るとも劣らない外道ぶり。反社会的スガ政権。なんじゃこりゃ。


10月29日(木曜日) GOTOナンチャラ
 トランプ大統領の演説や放言は嘘だらけで支離滅裂、菅義偉首相の国会答弁や説明も嘘だらけで支離滅裂。どっちも最低でどっちの支持者(信者)も、もれなく救い難い。維新も同類。


11月5日(木曜日) 期日前投票と郵便投票
 米大統領選で期日前投票や郵便投票の集計が始まったら、民主党のバイデン氏の得票が多く積み重なっていくに決まってるじゃん。そもそも期日前投票や郵便投票だけで前回投票数の7割、1億票近くあるというし、その期日前投票や郵便投票をしたのは民主党支持者が多いのだから。そんな事前に周知されていて分かりきったことを、今さら言われてもなあ……。

 期日前投票の開票が進むにつれてバイデン氏の得票数が伸びたことに、納得がいかないトランプ大統領は「昨夜、多くの州で私がリードしていたのにリードが魔法のように消え始めた」と主張しているという(TBSニュース)。「魔法のように」って(絶句)。明らかに頭がおかしい。こんなのが米国大統領を4年間も続けてきたなんて。こんなのにこれからさらに4年間も大統領を任せよう、と考える人々がいるなんて。


11月30日(月曜日) 東京五輪、そもそも開催は無理
 東京オリンピックのために、どれだけ我々の税金をドブに捨てれば気が済むんだ。無駄金がどんどん膨らんでゆく。それだけあれば、疲弊する医療関係者や赤字に苦しむ病院をどれほど支援できることか。飲食店などの支援にも回せるはず。これまで五輪に費やしてきた膨大な予算はどこへ消えた。巨大広告代理店やコンサルなど一部の業者と、一部の政治家が私服を肥やしただけじゃないか。もういいんじゃないかな、東京五輪は。そもそも開催は無理だよ。無理がありすぎるよ。

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・(社説)香港の法治 言論の弾圧をやめよ  朝日 2020年12月3日
 平和的に街頭で意思を表す自由が封じられてはならない。デモ活動をした香港の若者らに対する弾圧に強く反対する。

 香港で昨年夏に起きた無許可のデモを扇動した罪などに問われた3人に、地元裁判所が実刑判決を言い渡した。

 いずれも20代の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)、周庭(アグネス・チョウ)、林朗彦(アイバン・ラム)の3氏である。

 デモは逃亡犯条例の改正への反対を訴え、黄氏らは積極的に対外発信を続けていた。

 黄氏は禁錮1年1カ月半、周氏は同10カ月、林氏は同7カ月とされた。周氏はさらに、香港国家安全維持法(国安法)違反容疑でも逮捕されている。

 昨年以降、香港の言論をめぐる状況の悪化ぶりは目を覆うばかりである。

 3人だけではなく、昨年の抗議行動を理由に拘束された者はすでに1万人以上にのぼり、うち2千人以上が起訴された。

 苛酷(かこく)な法執行を通じて、市民らの言動を威嚇しようとする当局側の意図は明確だ。

 とくに今年6月に中国が香港の頭越しに国安法を成立させて以降、弾圧姿勢は急速に激しさを増している。

 このままでは香港基本法で保障される「独立した司法権」が脅かされ、自由や民主を唱える市民に広く厳罰が科されるのでは、との声は強い。この3人を含む大量の訴追と刑罰は、その懸念が現実のものになっていることを感じさせる。

 憂慮すべき事態は、それだけではない。

 抗議活動で拘束された者のうち、1千人以上は18歳未満の中高生らだとされる。香港政府はこれを重視し、学校での愛国教育の強化に乗り出した。役人たちが中国や香港政府に忠誠を誓う「義務」を、厳しく守らせる動きも進められている。

 香港の繁栄を築いてきた自由と法治が、根本から破壊されかねない。香港返還時の国際公約である「一国二制度」と「高度な自治」の保障を、中国に求め続けねばならない。

 日本や欧米各国の政府は強い懸念をくり返し表明している。中国は反発を強めているが、それによって圧力を弱めるようなことがあってはならない。かつて植民地統治をしていた英国を筆頭に、国際社会は共同行動を強めるべきだ。

 「正直言って怖い。でも、いま声をあげなければ、もうあげられなくなるかもしれないんです」。昨年6月に日本を訪れた際、周氏は独学で学んだ日本語で必死に訴えていた。

 香港の若者が日本に向けて放った言葉の重み。それをいま、改めてかみしめたい。〕

日本も米国も・・世界でも・・・  2020/10/19

日本でも米国でも・・そして中国と香港でも・・見たくないもの・・隠しようもない現実を毎日見せられる。だが、その現実の裏側に、影には・・政権を支える側と反対する側の・・対立し争う人々の姿が見えてくる。長い人類の歴史を積み重ねてつくってきたこの社会・世界・地球で、人間はこれからも何を求めて、何をしようとしているのだろうか。

〔・(社説)菅「継承」内閣が発足 安倍政治の焼き直しはご免だ  朝日 2020年9月17日
 政策のみならず、人事・体制においても、安倍政権の「継承」は歴然だ。7年8カ月に及んだ長期政権の行き詰まりを打破し、傷ついた民主主義の土台を立て直すことができるか、前途は険しいと言うほかない。

 ■暫定色払拭するには

 菅新内閣がきのう発足した。閣僚20人のうち8人が再任、3人が横滑り。行政改革に熱心な河野太郎防衛相の行革相への起用や、菅氏が旗をふる行政のデジタル化を主導するデジタル相の新設などに「菅カラー」はうかがえるものの、全体としてみれば、「安倍改造内閣」といってもおかしくない陣容だ。

 安倍氏の盟友として政権の屋台骨を支えた麻生太郎副総理兼財務相も再任された。森友問題で公文書改ざんという前代未聞の不祥事を起こしながら、政治責任にほおかむりを続けた麻生氏をナンバー2としてそのまま処遇する。政権運営の安定を優先し、政治の信頼回復は二の次というわけだ。

 組閣に先立つ自民党の役員人事では、二階俊博幹事長の再任など、総裁選で菅氏を支持した5派閥のベテランが主要ポストを分け合った。菅氏は自らが無派閥であることを強調し、人事で派閥の要望は受けないと明言してきたが、論功行賞や派閥均衡への配慮は明らかである。

 結局のところ、安倍政権下の主流派が、トップの顔をすげかえて、その権力構造の維持を図ったというのが、今回の首相交代ではないのか。

 約8年ぶりの新しい首相の誕生だというのに、高揚感にはほど遠い。女性閣僚は2人だけ。初入閣も待機組が目立つ。経験重視の手堅い人選といえば聞こえはいいが、政治のダイナミズムは感じられない。菅氏の自民党総裁としての任期は、安倍氏の残りの来年9月まで。「暫定色」を払拭(ふっしょく)したければ、内外の諸課題に対し、確実に結果を出すほかあるまい。

 ■見えぬ国家ビジョン

 新政権にとって、当面の最重要課題がコロナ禍への対応であることは間違いない。感染拡大の勢いはやや衰えているとはいえ、インフルエンザとの同時流行が懸念される秋冬に向け、万全の備えを急がねばならない。

 感染防止と経済活動の両立という難題も続く。国民の幅広い理解と協力を得るには、首相が先頭に立って、丁寧な説明や情報開示に努めることが不可欠である。官房長官会見でしばしばみられた、木で鼻をくくったような対応では、到底共感は得られないと心得るべきだ。

 突然の首相辞任を受けた、いわばリリーフ登板であったとしても、首相となった以上、菅氏には日本が直面する難題に正面から挑む重い責任がある。

 気がかりなのは、総裁選の論戦から、菅氏が思い描く経済社会の将来ビジョンが明確に伝わってこなかったことだ。菅氏は「自助、共助、公助。そして絆」と繰り返したが、その三つのあるべきバランスをどう考え、それを実現するために何が必要なのかは語られなかった。

 役所の縦割り、既得権益、悪(あ)しき先例主義を排して、規制改革を進めるとも強調したが、それはいわば手段であり、それによって何を実現しようとしているのかは具体的ではない。

 少子高齢化が進むなか、どうやって社会保障制度の持続可能性を維持するのか、負担と給付のあり方をどう考えるか。世界に目を向ければ、米中の覇権争いが激しさを増している。国際社会の安定のために、両国と関係が深い日本に何ができるか。菅氏の考えを早く聞きたい。

 ■解散よりコロナ対応

 安倍政治の下でゆがめられた政策決定のあり方や国会の空洞化も、この機会に正されねばならない。問題の多い安倍氏の政治手法まで「継承」されてはたまらない。

 新内閣で「官邸官僚」の多くも残留が決まった。菅氏としては、引き続き強力に官邸主導を進めるつもりなのだろう。

 しかし、安倍政権下では、各省庁の官僚の専門性が軽視され、官邸への忖度(そんたく)がはびこったとされる。菅氏は先日、政権の決めた政策の方向性に反対する省庁の幹部は「異動してもらう」と明言した。忖度を生む原因と指摘される内閣人事局についても問題はないとの認識だ。これでは、国民よりも官邸をみる官僚が増えないか心配だ。

 菅氏はまた、日本の首相は諸外国に比べ、国会に拘束される時間が著しく長いとして、首相の国会出席は「大事なところに限定すべきだ」とも述べた。説明責任を軽視し、国会論戦から逃げ回った安倍氏の振る舞いが繰り返されないか。

 閣僚や与党内からは、新政権への世論の期待が冷めないうちに衆院の早期解散に踏み切るべきだとの声がでている。自民党内の派閥の合従連衡で首相に決まった菅氏が、国民に直接信任を求めることは一概に否定できない。しかし、今、求められるのはコロナの終息に政府の総力を注ぐことだ。その優先順位を見誤ってはいけない。


・日本の子の幸福度 健康は1位、「精神」はワースト2位   朝日 中井なつみ 2020年9月3日
 日本の子どもたちは、身体的には健康だが、精神的な幸福度は低い――。こんなデータを、ユニセフ(国連児童基金)が3日に公表した。先進38カ国を比べた調査で、死亡率などが低い一方、今の生活への満足度などが低く、「子どもの幸福度」の総合順位は20位だった。1位はオランダ、2位がデンマーク、3位はノルウェーと、北欧の国が上位を占めた。

 調査は、生活の満足度が高いと答えた割合や、自殺率の数値を比較した「精神的幸福度」▽死亡率や、肥満の子ども・若者の割合を比較する「身体的健康」▽読解力や「すぐに友達ができる」と答えた子どもの割合を比較する「スキル」の3項目を、直近の指標から算出(対象は多くが5~19歳)。日本は「身体的健康」で1位となったが、「スキル」が27位、「精神的幸福度」は37位で、ワースト2位だった。例えば、15歳の子どもたちに「今の生活の満足度」を0~10で評価してもらったところ、「5以下」と答えた割合は、日本は4割近かったのに対し、総合1位のオランダでは約1割だった。

 子どもの幸福度に関する調査は、前回は2013年に実施。対象国や指標が異なり単純比較はできないが、当時の順位は31カ国中6位と上位だった。

 調査の報告書では、子どもたちの幸福度は公共政策や社会情勢、そして子ども自身や保護者のネットワークに影響されると指摘。現在、新型コロナウイルスの感染拡大によって学校が休校になったり、経済や社会に大きな影響が及んだりすることで、子どもたちが長期的にもマイナスな影響を受けかねないと訴えている。

 会見に同席した法政大名誉教授で教育評論家の尾木直樹さんは、日本の子どもたちの精神的幸福度の低さについて、「一斉主義で、競争原理に支えられている学校システムの影響も大きいのでは」と分析。受験勉強など、偏差値によって比べられることなどを通じ、子どもの自己肯定感が下がりかねない現状があると指摘した。(中井なつみ)

子どもの幸福度 ランキング
1位 オランダ 2位 デンマーク 3位 ノルウェー   20位 日本  36位 米国 〕

悲惨な災害と国民の意識とそれに伴う政治  2020/09/20

総理大臣の数々のウソにまぎれた政治と、それを支えてきた国民の甘い意識が終わろうとしていない中に、自民党の派閥とかいう仕組みが後継者を決めてしまったのを、どう見たらいいのか・・日本人なのか、人間というものがそういうものなのか・・米国でも、人々の意識はそんなものなのか・・という思い。

そんなどうにもならないことはさておいて、どうにかなりそうな可能性が少しは見える豪雨・台風に見られる悲惨な浸水被害は、この数年にわたって、何度もその映像を見るたびに・・自分の身に置き換えてみるたびに、気がかりが続いている。

自治体や気象関係者も、それなりの努力はしているようだが、木材の需要が少なくなった山と川に対する政治の姿勢にその基本的な原因が見えてくる。

沖縄の基地問題もそうだが、自分の家の中に水が侵入した時のことを、少しでも想像してみれば、政治とか、国民とかの意識というものは、そんなものなのか・・という思いが仕方なく浮かんでくる。


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〔 ダム、必要以上に下流へ放流か 豪雨時に4基で水位低下 山本孝興  朝日 2020年8月18日
 西日本豪雨などがあった2018年、19年の2年間に、台風などの際に緊急放流をしたダムは全国に14基あり、少なくとも4基のダムが必要以上の水を下流に放流していたとみられることが、管理者の国や県への取材でわかった。見極めが難しい流入量を放流量が上回る「過放流」だった可能性がある。

ダムに過放流の可能性 「流入量の計算にタイムラグ」
 緊急放流は、大雨でダムが満水に近づいたとき、流入量と同じ量まで放流して水位を一定に保つ操作。この際に過放流をした場合、必要以上の水が下流に流れることになり、浸水被害につながる可能性もある。

 国土交通省によると、2018年7月の西日本豪雨で8基のダム、昨年10月の台風19号では6基で緊急放流が行われていた。朝日新聞は、ダムを管理する国交省や県への情報公開請求などで、当時の放流量や流入量、水位などが記された「操作記録」を入手した。

 それによると、西日本豪雨時の「鹿野川(かのがわ)ダム」(愛媛県大洲市)と「野村ダム」(同県西予市)、台風19号時の「塩原ダム」(栃木県那須塩原市)と「高柴ダム」(福島県いわき市)で、緊急放流中にダムの水位が下がっていた。

 4基のダムでは緊急放流の開始から約25分~2時間後、放流量が流入量に追いつき、水位の上昇が止まった。その後は流入量にあわせた放流が続いており、水位は一定のままになるはずだった。だが、水位は塩原ダムの約1・65メートルのほか、3基のダムでも約1メートル~約0・35メートル低下。貯水量では約166万5千~約33万トン(東京ドーム1杯分が約124万トン)減っていた。

 国交省や各県の担当者によると、緊急放流の操作は、ダムを管理するコンピューターが算出した数値に従って職員が行う。水位は実測値を元に算出され、放流量も正確に把握されている。これに対し、支流などあらゆる所から流れ込む流入量は正確に測れないため、直近10分~1時間単位の流入量を元に「想定値」を算出している。

 西日本豪雨時に国交省四国地方整備局の河川管理課長だった渡辺健二氏は「(想定した)流入量が実際の現象を表していなかった可能性がある。結果として、放流量が上回ったかもしれない」と説明。国交省河川環境課も「算出システムの精度が大規模な雨に追いついていない部分はある。今後、何らかの対策をとる必要がある」と話す。

    ◇

 愛媛県肱川(ひじかわ)流域にある鹿野川、野村両ダムをめぐっては、緊急放流中にダム下流域の大洲市西予市で約3500棟が浸水し、8人が死亡。下流域の住民らは今年1月以降、「浸水被害が広がったのはダムの緊急放流が原因」として、国などに損害賠償を求める訴訟を松山地裁に起こしている。(山本孝興) 〕