いま見えてくること 

いま見えてくること 

政治家とそれを支えている国民に失望していることが、書く動機やエネルギーとなっているのだが、そんな中にも真に事実を見ている意見や記事に出合うことは、日々の生活を支える力になっている。人々は、そして子どもたちもクリスマスだとか正月を楽しみにしているのはいいとしても、そんなことには縁がない人々の生活がある。

香港では学生や若い人たちがデモに繰り出して、中国がバックにある権力側と戦う危険にもかかわらず、自分の生活と将来のために闘っている。日本の学生たちも、かつてはそんな情熱があって闘っていたことが、香港の情景を見るたびに思い出される。

日本では少子化で、仕事にも困らないせいか、自民党支持も多いようで、それも政権がおかしなことを繰りかえしても、世界の温暖化対策にも加わらないで、年金問題にも、貧困層の生活にも、先が見えない状況は変わらない。これからの子どもたちと若い人たちの行く先に待っているのがどんな世界なのか、いまの米・英・中国や中東の状況とともに懸念は膨らむ。


〔 信じられない萩生田発言 池上彰さん「報じぬ記者鈍い」 朝日 2019年12月27日
池上彰の新聞ななめ読み
 大学入試に民間の英語試験を利用する案は、萩生田光一文科相の「身の丈発言」で潰れましたが、萩生田大臣は、またも問題発言をしています。朝日新聞12月24日付朝刊の34面に、次の記事が出ていました。

高等教育支援の対象外、文科相「端境期なのでご理解を」
 〈来年度から大学など高等教育の学費負担を減らす文部科学省の新制度で、従来なら支援を受けられたのに対象外となる新入生が出ることについて、萩生田光一文科相は23日、「先輩はこういう家庭環境でこうだったのに、俺はという不満はあるかもしれない」とした上で、そうした学生が出ることに対し、「制度の端境期なので、ぜひご理解を」などと述べた。文科省によると、対象外となる新入生は国立大だけで約5千人になる見込み〉

 これは由々しきことです。制度を変えることで支援を受けられない新入生が出ることは、制度設計の欠陥と言うべきでしょう。

 官僚が制度設計をした結果、対象外の学生が出ることが明らかになったら、政治家の出番でしょう。政治主導で救済策を考えるべきなのに、政治家が自ら「端境期なので、ぜひご理解を」とは、なんたること。弱い立場の人への思いやりが感じられません。これでは、「身の丈に合わせて」という発言と大差ないではありませんか。子どもたちに教育の機会均等を保障すべき文部科学省のトップの発言とは信じられません。「身の丈発言」がなぜ批判されたのか、その意味がわかっていないのではありませんか。


 こんな重大な問題発言をしたのに、朝日のほかは日経新聞が24日の夕刊10面に小さく載せただけで、読売新聞や毎日新聞は、この萩生田発言を報じていません。これはどういうことか。他の新聞記者たちは、この発言の重大さにすぐに気づかなかったのでしょうか。気づかなかったのならば、記者たちの感性の鈍さに驚くしかありません。

 その点、朝日の記者は問題を感じたのですぐに記事にしたのでしょう。その点で高く評価しますが、これだけの問題発言なのに、その後の続報がないのは、ちょっとがっかりです。

 朝日の記事を朝刊で読んだ後、同日の毎日新聞夕刊2面の「あした元気になあれ」というコラムに、こんな記事を見つけました。

 〈フィンランドで世界最年少の女性首相が誕生した。サンナ・マリーンさん、34歳。1児の母。新内閣の閣僚は女性が12人、男性7人。しかも連立政権に参加する他の4党の党首は全員女性という〉

 〈もっとも、私が今回、マリーン首相誕生のニュースで一番心を動かされたのは、その若さでも性別でもない。彼女の経歴だ。

 幼い頃に父親のアルコール依存が原因で両親が離婚。貧困を経験した。本人が「レインボーファミリー育ち」と語るように、その後、母親とその女性パートナーに育てられた。中学までの成績は振るわなかったが、高校や自治体の運営する施設で自分の居場所や仲間を見つけ、親族の中で初めて大学進学を果たした。「私を救ってくれたのは福祉制度と学校の先生」と政治家の道を志したという〉

 フィンランドは幼稚園から大学まで学費が無料。だから貧困の中からでも大学進学のチャンスがあり、首相までの道が開けます。コラムの記者は、こう文章を続けます。

 〈ため息が出た。今の日本でこの人生は可能だろうか。ひとり親世帯の貧困率が5割を超え、生活保護世帯や養護施設出身者の大学進学率は極端に低く、文部科学相が教育機会を語るのに「身の丈」などという言葉を持ち出す国なのだ〉

 全くの同感です。制度改革の狭間(はざま)で不利益を被る学生たちに対し、「端境期」という言葉を持ち出す大臣の神経を疑います。

 国連の国別幸福度調査でフィンランドは2年連続の首位であるのに対して、日本の幸福度は世界58位。その理由が、これでわかろうというものです。子どもたちへの愛情が感じられない大臣と、感性の鈍い記者たち。これでは少子化を食い止めることができないではありませんか。〕